たまふ! 多麿大学附属超能力科

たまふ!  多磨大学附属超能力科 (オーバーラップ文庫)

たまふ! 多磨大学附属超能力科 (オーバーラップ文庫)

読了。

「だから、早川さん。オレと友達になろう。早川さんの知りたいこと、全部、読んでいいよ。オレはスケベで、ズルくて、ウソつきだけど。……そんな奴だから、オレがスケベなこと考えていても軽蔑しないでくれて、ズルいこと考えていたら素直に騙されてくれて、ウソをついていたら皆に内緒にしてくれると、嬉しいかな。その代わり、好きな時に、好きなだけ、触って……、読み取ってくれてかまわないよ。
だから、早川さん。オレと友達になろう」


うわ、めちゃめちゃ面白い!
まず主人公の頭の回転の速さがいい。難聴系主人公だと『普通それ気づくだろ』 でしらけますけど、こいつは『そんなことまで察せるの!?』 な観察力・洞察力の持ち主で、読んでてストレスがなくて気持ちいい。他のキャラも「相手の気遣いを察せる」 ような人ばかりで、会話がぽんぽん進むため、狼と香辛料みたいに会話が軽妙で面白い。また↑の引用にあるように、主人公は「スケベで、ズルくて、ウソつき」 を自称してるんですが、悪い意味では全然なくて、やっていることはただ「女の子はとりあえず褒める」 だけ。それを常に実践して、出会う女性のほとんどに好かれる姿は、まさにハードボイルド探偵ものの主人公*1。男からしても「おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!」 てなもんですよ。
そうした掴みはバッチリなところで、いちばん最初にこの本に惹き込まれたのが、主人公がヒロイン二人に弁当を振る舞う場面。ヒロインBは寡黙で人を近寄せないハリネズミ・タイプの典型なんですが、93頁「下拵えもすごく丁寧。面取りがしてあって、コンニャクには飾り包丁でしょ。(〜中略〜) 男の子がこんな煮物を作れるなんて信じられない」 とペラペラ解説してしまうほど、主人公は料理上手です。『なんだよおさんどん系主人公かよー、そりゃモテるわなー』 とか思うわけですが、そのあと主人公はモノローグで「女の子に食べてもらう弁当だから(〜中略〜)一番、手間をかけています。自分が食べるなら、面取りなんかしません。出汁なんか取らずに、しょっぱく煮ます。」 とか独白するんですよね。この、「手間暇かけて作ったから凄いだけで、普段は男料理」 っていうのがすごく共感できて、親しみやすい。ここで一気に主人公が好きになりました。
ちなみにもう1人のヒロインAは「確かに、カボチャは美味しかったけれど、煮物はもっと、甘辛くないと物足りないわ」 とかで、主人公が料理にかけた手間暇を全く理解していません。この料理のシーン、たったの3ページなのに「主人公は料理上手、でも基本は男料理」「ヒロインBは食べただけで過程が想像できるほど料理ができる」「ヒロインAは濃い味付けが好みで、料理は不得意」 が伝わってきて、これも地味に凄いと思います。


とまあ、色々思い出して書きましたけど、面白かった場面を書き出したらまだまだ出てきてキリがないので、ここらで止めておきます。上にも書きましたけど、香辛料の会話の軽妙さとか、ハードボイルド探偵ものの軟派な主人公の小気味よさが好きな人には特にオススメです。続編も考えられているようなので、続きも楽しみです。

*1:樋口有介の柚木草平シリーズを思い出しました。