終わる世界のアルバム

終わる世界のアルバム (メディアワークス文庫)

終わる世界のアルバム (メディアワークス文庫)

読了。

「あ、そうだそうだ。今カメラ持ってる? 最近デジカメ使ってるんだってね? ワンちゃんたちの写真撮ってくれないかな。どの子にブラッシングしたのか、忘れちゃうんだよね」
恭子さんが言うので、ぼくは足を止めてしまう。カメラ。膨れたダッフルコートのポケット。死の可能性がぎっしり詰め込まれた不発弾。


「はー、どうせまたいつものキャラ造形にいつもの会話にいつもの展開だろうなー……でも最近積読少ないし買っておくか」 とハードルガン下げで買ってみたんですが、意外と面白かったです。いや、『いつもの部分』 は全くもうその通りで、本当にこれしか造形ないの? マジで? って思うくらいなんですが、それを補って余りある世界設定が面白くしてます。
簡単に言うと、ある日突然、死んだ人が(あるいは生きている人でも唐突に)、すぱっと消えてしまうというもの。そして人が消えると、最初からその人がいなかったように、物体も人の記憶も何もかもが抹消されてしまいます。そうして出来た空白には、別の何かが補完されています。
例えば同じクラスの生徒が消えてしまったとき、教室から机と椅子が1セットなくなっていたり。例えばビートルズポール・マッカートニーリンゴ・スターしかおらず、レコードからはドラムとベースしか聞こえてこなかったり。そして残された人たちは、できた空白に気づくこともできず、ただ少しの違和感を覚えるだけ。そしていつしか、空白に気づくことを恐れて、違和感すら気にしないようになってしまう……。こんな設定、面白くならないわけがないってもんですよ。