真夜中の五分前 side-B

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐B〉 (新潮文庫)

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐B〉 (新潮文庫)

読了。

水穂はそのときの水穂がどんな水穂になっていたとしたって、たぶん、あのころの猛々しい視線でつかつかと近寄ってきて黙って僕を小突き、それからあのころと同じ瑞々しい笑顔を向けてくれるだろう。それから僕は何を話す? 自分の近況? それとも思い出話? 色々何かを喋ったりするだろうけど、たぶん、僕が聞きたいことは一つだけだ。そう。僕は結局はこう聞くのだろう。
僕は墓石に目を向けた。
「なあ、今の君に今の僕はどんな風に見える?」

かすみとの偶然の出会いは、過去の恋に縛られていた僕の人生を大きく動かした。あれから二年。転職した僕の前に一人の男が尋ねてきた。そして、かすみとゆかりを思い出させずにはおかないこの男が、信じられない話を切り出してきた。


うん、面白い。
side-A と side-B に分かれていますが、この前読んだ「イニシエーション・ラブ」 ほど分冊に意味はなくて、単に A-B 間で二年間が過ぎているというだけです。しかしその二年の間に何があったかと言うと……、という話。
A では主人公が人を食ったような会話をするのが面白かったりしましたが、B ではそうでもありません。というのも、主人公の”心の底に、虚無感や虚脱感に似たものが常に流れている” ような印象を受けるせいですね。
これがもう、A のラストの描写を借りるなら、亀裂が入る前の状態。そこを、A ではかすみが強引に開けてくれたところを、B では勝手にゆっくりと開いていくのを自覚します。そしてそれが最大限に……というのが、引用文あたりの所。このシーンの感情移入っぷりは凄いですよ。164頁「ただ愛しかった」 がもう、ストレートに突き抜けて響きます。


「物語は、驚愕のエンディングが待つ side-B へ」 とか書いてありますが、別にそれ程でもなかった……というより、まあまあ予想の範疇内って感じです。そんな驚愕の事実よりも、ラスト1ページの「5分間」 の方がずっと素晴らしいですよ。