空とタマ

空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly (富士見ミステリー文庫)

空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly (富士見ミステリー文庫)

秋。秋といえば家出の季節だ。
本日七回目の家出をした俺は、目星をつけていた廃倉庫に忍び込む。何も見えない暗闇の中で俺はわかばを吸い続け、何箱も消費したところで……二階からケホケホッと咳き込む声がした。
「けして。たばこ」
どうしてこんなところに人がいるのか……そしてどうして今まで黙っていたのか。とりあえず俺はわかばを吸い続けた。すると、あろうことか二階から水が降ってきて……。


かくして顔も見えない暗闇の中で、顔も知らない誰かを追い出すための攻防が始まった――。

いやぁ、面白かった。
前半の、なんだろう、ゲリラ戦?w がなかなか良かった。倉庫の廃物を利用して2階に罠を仕掛け、侵入を阻止しようとする”タマ”。そしてそれに対して、やられっ放しが癪なようで、準備万端の家出グッズやら小賢しい策やらを使って、どうにか一発かましてやりたい”空”。
完璧と思い込んで推理をし策を弄して、でも常に一枚上手をかかれる空が微笑ましい。というか小六のときに似たような思考してたから、「死んだフリ作戦」 は「こうしたらいいんじゃね?」 って思いついたそのまんまだったw
そして後半。独白長いよ! これ絶対途中で寝てるオチだよ! と思ってたけど完全に真逆だったり。その後も顔が見えてるのか見えてないのか分からなかったり。でもその後の展開がまた良い感じ。ROUND6のオヤジとの話や空の新たな感情、そして最後の――

あの姿。
あの夜見た、あいつの姿。
月の光があいつの姿に真っ直ぐ伸びてきていた。
宗教画を連想した。圧倒的でどうしようもなく無慈悲な何かが、その胸クソ悪い腕を伸ばし、あいつを連れ去っていく情景にみえた。そのイメージはオレにとってリアルすぎた。
そしてなによりも。
あのときのあいつの目。

はあ、切ない、切ないなぁ。


モヤモヤさせてくれる良い本でした。うん。