DIVE !! 上下巻

読了。

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 上 (角川文庫)

「でも、考えてみるとそんなおかしなエネルギーを秘めた桜だからこそ、こんなにもたくさんのきれいな花を咲かせることができるのかもしれないわね。桜自身にもコントロールできない爆発的なエネルギー。それが幹の中でうずまいて、こんなにも曲がったり、よじれたりしてしまうのかも」

DIVE!! 下 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

「飛込み以外は、ないんです。ふつうの友達も、ふつうの家族も、特別な女も、旅行の思い出も、趣味も、なんにも。飛込み以外には何も俺にはなかったんです」
「そりゃさびしい話だな」
「慣れればたいしたことじゃないし、おれはそれでいいと思ってやってきたんです。だって……」
「なんだ?」
「笑いませんか?」
「さあどうかなあ」
「じゃあ言いません」
「神に誓おう」
「夢があったから」
「あ?」
「おれには夢があったから、飛込み以外に何もなくたって平気だったんです」

文句なしに絶賛! 話が進むにつれ魅力が増大していきます。





高さ10メートルの飛び込み台から時速60kmでダイブして、わずか1.4秒の空中演技の正確さと美しさを競う「飛び込み競技」。その一瞬に魅了された少年たちを描いた青春ストーリー。

上巻も光るものはあったんですが、下巻はそれを遥かに上回った素晴らしい出来でした。上巻はたまーに笑わせる文章が入ってきますが、ほぼシリアス路線。やや固い印象だったんですが、それに対して下巻では一転、楽しい会話がかなり増えてます。しかもシリアスに対するスパイスとしての位置づけは失わず。
たとえば、ライバル同士の彼らが交わす陸上での会話は、友人としての楽しい会話でありつつも、試合の後には儚く消えるかもしれない貴重なもの。その、シリアスさを孕んだコメディの絶妙な味付けがたまりません。
1,2,3部は主人公の3人を深く掘り下げ、ラストの4部では否応なしに熱くなる展開に加えて、3人の周囲の人たちにスポットを当てていきます。これがまた、脇役みんなが魅力的なんですよね。そういった人たちの話が更に話を熱くさせる。ホント素晴らしい。誰だ、これブックオフに売った奴。信じられん。
というわけでお勧めですよ。ひさしぶりに充実感のあった本でした。森絵都の他の本も読んでみるかな。



余談。

すべての努力が報われるのも一瞬なら、泡になるのも一瞬。なんてはかないゲームだろう。だれがこんな競技に手をだしたんだ? おれだ。そう、おれがこの手をあの夏の日に。

関係ないけどこのフレーズがものすごく気持ちいい。「俺がこの手をあの夏の日に」。