春期限定いちごタルト事件
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/12/18
- メディア: 文庫
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「うん、きょうはいい日だったな。テストも終わったし、ケーキも食べたし、自転車がどうなったかもわかったし。いい日だったな……」
まあ、そう言うのなら。
「そうだね。あしたもこうだといいね」
しかし小佐内さんは、ぼくのその台詞にはぐっと言葉を詰まらせた。
小市民たれ、をテーマに生きようとする小鳩と小佐内だったが、二人の前にはなぜか頻繁に奇妙な謎が現れて……気がつけば謎を解く羽目になる、コメディタッチのミステリ。
うーん面白い。まあ米澤穂信の否定意見は見たことがないくらいだし、程度はあれど面白くないってことはないと思ってたし。
小動物然とする小佐内さんがかわいいのは勿論だとして、照れ隠しに仏頂面をするけど堪えきれずに顔がニヤけ出す健吾もいい。あの、笑わないぞ笑わないぞと思いつつも、口許がもにょもにょ動き出す感覚をこんなところで体験できるとは思わなかった。
他にも、とうとう爆発する小鳩とか『言ってしまうのか、それを。』 とか、惹きつけられるシーンが多かった。期待に違わず2塁打ってところかな。野球は全然わかりませんが。
ただ1つ難があって、ココアの例をぽんぽん出す所とか『彼は15歳だが異常ではない』 とかが妙に理解しにくい。そのせいで、理解できない箇所で立ち止まって考えること3分、とかが結構あった。今になって読み返してみると理解できるから、正解への方向性を持って臨まないと駄目なのかも。まあ私の場合、なんだけど。
中でも、上の引用の続きで
(面倒なので以下すべて白文字)
なにか言いかけて、無理に押し込んでまた笑う。
ちょっと痛々しい小佐内さんの笑顔を見ながら、ぼくは思う。あんまり腹がふくれすぎると、いい日であるべきあしたに差し支えるんじゃないかな、と。
いろんな意味で。
は、バイト中で文面を見ながらでなかったとはいえ、理解するのに一時間もかかってしまった。私はこれを
『腹が膨れすぎる(=想いを飲み込む) といい日(=良い日)を送れない』
『腹が膨れすぎる(=想いを飲み込む) といい日(=悪い日) を送れない』
『腹が膨れすぎる(=食べ過ぎる) といい日(=良い日) を送れない』
の3つと読み取ったんだけど、2番目の意味がわからない。文脈的にいい日=悪い日、という意味は使うはずだから、飲み込むと悪い日を送れない? 何だそれ? と思った。結局考えに考えた結果、飲み込んでばっかりいると悪い日をいい日だったと言い張るのにも限界が来るよ、という意味で、
『腹が膨れすぎる(=想いを飲み込む) といい日を送れない(=悪い日の憂鬱を飲み込んでいい日と言い張ることが出来なくなる)』
というところへ落ち着いたんだけど。ああもう複雑すぎる。
これはまさに、解説でまいじゃーの極楽トンボさん(これには驚いた) が言ってる「1行の中に3行分が読み取れる感覚」 で、私もこれ大好きなんだけど、さすがにこれは……気分的には1行で10ページですよ。ここ。