夏期限定トロピカルパフェ事件

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

読了。恐るべし米澤穂信。彼の本は2冊目だけど、他のも全部当たろう。

全てはこの忌々しい暑さのせいだ。ぼくはそう決めた。何もかもがいつも通りだったら、ぼくはこんなことを考えはしなかったに違いない。
いま、この家にはぼくと、小佐内さんしかいない。誰の目を憚ることもない、ということだ。
これまでだって、二人きりになることが全然なかったわけでもない。だけどぼくは、小佐内さんに手を出そうなんて考えたことはなかった。今日までは。

犯罪らしい犯罪もなく「小市民たれ」 をスローガンに日々を過ごす小鳩と小佐内だが、気がつけば謎を解く羽目になる、小市民シリーズ第2弾。


「シャルロットだけはぼくのもの」。駄目だ、笑えてくる。ひどくおかしい。『なんという、なんという旨さか!』 からこっち、しばらく笑い続けてしまった。
よく、探偵は犯罪者と同種の人間でしかなく表裏一体である、という話があるけど、普通のミステリならそうそう探偵が犯罪を犯すわけにはいかない。ところがこの小市民シリーズではそれが容易に可能なのだ。それを体現したのがこの「シャルロットだけはぼくのもの」 で、甘美な誘惑に負けてしまい、やってはいけないことをしてしまう小鳩が非常に可笑しかった。


……というような感じで、第1話が「春期〜」 と同じようなテンションだったので、次なる話もそう続くことを期待していたのだが、これは……。もう、見事に足元をすくわれてしまった。
「春期〜」 から抱えていた違和感・矛盾が浮き彫りにされてどんどん抉り取られていく様は、爽快感など欠片もなく、澱が舞い上がって黒く渦を巻いているような気分だった。春期を読んで受けた印象は、「ちょっとおかしい所もあるけど、まー、なぁなぁで楽しくいこうよ」 くらいだったのだが、それを見事に粉砕してしまった。参った。これはもう、降参と言う他ない。これほどだとは思わなかった。恐るべし米澤穂信、か……。


ところでここでかなりすっきりと終わっていて、例え単行本だったとして、最終ページが夏期のそれでも全く違和感がないのだけど、秋期は出るのだろうか。