夏休み

夏休み (河出文庫)

夏休み (河出文庫)

読了。

例えばユキに”AまたはB” という選択肢があったとする。ユキの希望や意志といったものは既にAを選んでいたのだとする。そういうときにする賭けにこそ意味があるのよ、とユキは言う。
――Bにもフェアに機会を与えるの。その上で勝って得た選択には新たな価値が宿るじゃない。

「十日ほど留守にします。必ず戻ります」 吉田くんの家出がきっかけで、二組のカップルが離婚の危機に。


面白かった。予想外。この作者じゃ文句なしで一番。
ただ、どこがどう良かったか、上手く説明できないのがこういう本の悩み所。なんというか、数学の公式に「美しい」 と感じるのと似た感覚、というか……。作中の言葉に「シンプルで力強くて、美しい発明でしょ?」 というのがあるけど、これに似た感覚を、この本の色々な箇所で感じた。
……という『こういう雰囲気って何となく良いな』 レベルであればそこそこの面白さだったんだけど、最後の最後の展開が実にシリアスで、"雰囲気" じゃなく"はっきりと" 面白かった。175頁「乗るか乗らないか、人生にはそれしかないのよ」 に対する返答で、177頁「……そんな出来損ないのアングルには乗れないな」 にはかなり燃えた。そしてその後の、心臓がキリキリするような展開に……196頁「フェアネスを踏み越えた」 が実に心地よく響いた。


全く予想外で、作中の言葉を引用すれば「アピール加速度」 がついてるだけかもしれないけど、一応他の本にも手を出してみようかな。


余談。
中村航 公式サイトTOPでは、著作から一文を抜き出して引用してるのが面白い。F5で違う文章になるので、色々試してみて引っかかるものがあるなら、試しに読んでみてもいいかも。