サウンドトラック 上

サウンドトラック 上 (集英社文庫)

サウンドトラック 上 (集英社文庫)

読了。表紙+タイトル買い。7:3ぐらいの割合。

カナの、拳が疼いた。愛も全身全霊なら殴り飛ばすのも全身全霊だった往時十四歳のガールは、SONYとナックルが一体化して自分が攻撃型ウォークマン・巨大ロボ版に変じてしまったような一瞬、全体重が腕の先端にのって、裏切りという名のものが吹き飛ばされた刹那の手応えを忘れられない。その一瞬のヒット 、そして続いた再度のヒット。
そうよ、あたしはひとを殴ればいいのよ!
適当ゆってる世の中に、パンチを叩き込むわ、全身全霊で!

東京は異常な街に変貌していた。ヒートアイランド現象によって熱帯と化し、スコールが降りそそぐ。そんな街に戻ってきた、青年トウタと少女ヒツジコ。二人は幼い頃に海難事故に遭い、無人島でサバイバル生活をしていたのだった。激変した東京で、二人が出会ったものとは――。疾走する言葉でつむがれる、新時代の青春小説。


これは楽しい疾走感。
そして密度がある。2歳と4歳の頃からハイティーンまでの変遷が前半。割と長いくせして、その独特の文体は読みやすくて、まさに「疾走」 、ページを繰る手が止まらない止まらない。後半はレニやユーコ、フユリンにカナの人生をダイジェストで書きつつ、ヒツジコとトウタの東京生活。これもまた長い。けれど面白い。
「青春小説」 とあるけど、私が持ってるそれとはイメージが違うみたい。まあ思春期の行動ではあるけど。なんだろう……青春って、私が考えるに、後で振り返ったときに後悔するというか、「そんな風に考えていた時期が私にもありました」 的なものだと思ってて、でもこの小説の主人公たちはそんな気配を見せない。「これが正しい」 と狂気の中を突っ走ってるような感じがする。そしてそれが有効である、というのがフィクションならではの面白さ楽しさ。
169頁「感情を有しているのは運動だ」 とか、199頁「あたしが、踊って滅ぼす」 とか、249頁「さよなら受動態」 とか、背筋に電気が奔るような感じ。あと引用文あたりも。堀・"全身全霊ガール"・バビロニア*1の言動なんだけど、このハイテンションな一直線さが好き。



どう考えても、この本を読んで受けた印象/感想を100%アウトプットすることは出来ない(多分今これで30%くらいかな) ので、まあこの辺で。

*1:本名。通称で堀カナ。