ゾラ・一撃・さようなら Zola with a blow and goodbye

ゾラ・一撃・さようなら

ゾラ・一撃・さようなら

読了。タイトル買い。

「あ! わかった。このまえの女でしょ? そうだそうだ、顔に書いてあるもん」
「何て書いてある?」
「うっとりって」
「うっとり?」
「そう」
「ひらがなで?」
「え?」
「カタカナ?」
「何の話? 誤魔化してるつもり?」
「今、僕の顔にうっとりって書いてあるなら、それは君を見ているからかもしれない。それとも、この素敵なカツサンドのせいかもしれない。何にうっとり、とは書いてないの?」
「そこまでは書いてないけど」
「そうか。いい加減な記述だな」

孤独で気侭な探偵・頚城。謎の美女が現れ、元都知事の館にある「美術品」 を取り戻してほしいという依頼を……。ウィットに富んだビタースウィートなミステリ。


ああ、なるほど、ビタースウィートという言葉が端的かも。
帯の紹介文は*1酒脱でキュートでスリリング、新感覚ハードボイルド」 だけど、「新感覚」 「ハードボイルド」 なんて怪しいことこの上ない説明だよなあ。まあ、広告としては効果的かもしれないけど。
というわけで探偵の頚城がとある美術品を取り戻す、という話で……って”エンジェル・マヌ−バ” かよ!またか。また森・博嗣・ワールド突入か。時代的にはGPS携帯があるくらいだから、割と新しい方だけど……。レプリカとか言うし、”魔剣や捩れ屋敷” の時と同一のものかは微妙かも。
ストーリーの流れ的には、やっぱりビタースウィートがしっくり来るかな。後やっぱり引用文のような文章はついつい笑ってしまう。妙に主人公にすり寄ってくる赤座都鹿との掛け合いだけど、これがまた”2章終わりで、こいつが実は暗躍してる” とか思ってしまった。結局”ただのミスリード” ってことっぽい。……多分。


まあまあ、森博嗣の単発の中では割と良い方ではないでしょうか。ZOKUDAMみたいにシリーズ化しても困りますが*2




余談。
もう各シリーズに出てくる名前なんて覚えてないし、こいつの名前どっかで見たことあるよなあ……頚城とか法輪とか菅沼とか! って検索してみたら、簑沢素生――夏のレプリカ、ですね。こいつはまた古いのを持ってきたもんです。萌絵の友人の杜萠の義兄……全く覚えてませんね。ということは、同一のものとして”捩れ” より過去の話かも? 微妙です。


余談2。
(以下、疑問に思った箇所をつらつらと考えた文章。完全ネタバレ)
各章の終盤ごとに志木真智子の語りが入ってきますが、読み終わってから、これが実は母・貴子の語りだった――(p23のプロローグ終盤、「私とは一回りも離れている」) と最初は思ったんですが、どうも第2章終盤(p.p.179〜181) で「彼の声を聞いて、自分が本当に恋をしてしまったということがわかった」 と、「愛する人を殺す」 が乖離していると思わざるを得ませんでした。もしこれが貴子なら、愛する人を殺す、というのは法輪のことでしょうが、それなら「彼の声」 というのが解せません。逆に真智子なら後者が解せません。頚城は死んでないですから。


ここで思い浮かんだのは、この語りが貴子ではなく真智子なら愛する人」 というのは母・貴子では? ……という考えです。そう、つまり第4章で真智子1人で貴子がいなかったのは、既に貴子は殺されていたから、というアイデアです。これだと、第4章終盤(p270) 「また一つ、命を神様にお返しすることができた」 というのが法輪ではなく貴子の命という意味で通ります。
しかしこれだと、第3章終盤(p236) の「さようなら。私は、彼のその言葉を贈った」 の意味が通りません。これは貴子が法輪に贈った言葉のはずで、真智子が法輪にさようならを告げるタイミングはありませんでした。


ということはやはりこれは真智子の語りではなく貴子なのか……? と混乱しかけた所で、そう、手紙のことを思い出しました。「from Zola with a blow and goodbye」 。つまり、ここでさようなら」 を贈った相手というのは頚城のことなのです。これで意味が通ります。


というわけで、私の考えを整理すると、真相のもう一つ奥は
・各章終盤の語りは全て真智子
・法輪を殺したのは貴子
・その貴子を真智子が殺した(実行犯を口封じ?)
・吉田護は真智子に銃を教えていた(貴子に、ではない)


……ですかね。第2章の乖離の違和感を説明するために、私の足りないミステリ脳を振り絞って考え付いたのがこの説明ですが、さてどうでしょうか。


(ここまで)

*1:上のは折込冊子の新刊案内に載っている文。

*2:シェア・ワールドのしすぎでついていけないから。