小説・秒速5センチメートル
- 作者: 新海誠
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2007/11/14
- メディア: ハードカバー
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――雪だ。
せめて一言だけでも、と彼は思う。
その一言だけが、切実に欲しかった。僕が求めているのはたった一つの言葉だけなのに、なぜ、誰もそれを言ってくれないのだろう。そういう願いがずいぶんと身勝手なものであることも分かっていたが、それを望まずにはいられなかった。
あの人がいる場所にくると、胸の奥がすこし、苦しくなる……。恋心の不変と変遷、そして魂の彷徨――。ひとりの少年を軸に描かれる、心に沁み入る3つの連作短編集。
良かった。実に沁み入るお話でした。
しかし初読の時は、映画との相互補完の意味合いが強くて、あんまり……な感じだったんですが、感想を書くに当たってダイジェストな場面だけを拾い読みしていったら、これが見事に面白かったですねえ……まさに”魂の彷徨” って感じです。
第1話「桜花抄」 は、映画とほとんど変わりませんが、やっぱり描写が詳細な分だけ良いように思います。第2話「コスモナウト」 は……映画では(私の中で) ほぼ空気だったんですが、意外に健闘。100頁「――優しくしないで」 の花苗の感極まった思いと、ラストの103頁「……それでも」 はかなり震えてきます。そして小説版の肝である第3話「秒速5センチメートル」。引用文に続く一言から、163頁「それを止めることができなかった」 辺りのフラッシュバック、そしてラストの踏み切りでのシーン*1……もうね、切なすぎます。溜息が止まりませんよ。
ここで映画の方を観たら更に面白く感じそうですが、あいにくオンボロPCなので、ドライブがDVDを認識してくれないので購入後1回も観れてなかったりします。サントラCDはちゃんと取り込めたんですが。
(すごく長いけど) 余談。
映画のコピーは「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか」 であり、それが第3話のあの展開を超切なくさせるわけですが、小説版ではむしろ、このフレーズは内容と合致してないように感じました。そこを考えると、相互補完というよりは別の作品になるかも……。
というか、「映画では語られなかった彼らの心象風景が……」 とか言ってますが、映画の第3話が語らなさすぎなんですよ!*2 小説版では貴樹の視点で内心が如実に描かれるので、第3話を観てあるいは読んで、受ける印象が違うのは当然ですよね。
いや、どちらも同じ人が描いたストーリィなので、詳細な描写の方=小説版を下地にして映画版も描かれているはずなんですが、映画の方ではどうしても、(※重要ネタバレ)”明里が笑顔で男の人に腕を絡めるシーン” で「うわあああああああああ (ry」 となるので、”貴樹自身の問題に焦点が当たって” いる小説版とはやっぱりちょっと違いますよ。