冬の巨人

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

読了。この作者は前に「ある日、爆弾が落ちてきて」 を読んで以来ですね。あれも面白かったですが。

「教授のおっしゃっているのは、こういうことでしょうか。つまり――『自分の鼻を見るには他人の目が要る』」
「うむ。さらにひとつ付け加えるならば、先のわしの言は『君の鼻はなかなかいい形をしている』 という指摘をも含んでいる」
「教授の鼻も、ご立派だと思います。ただ、ずいぶん赤くなって、寒そうだ」
「おお、それはわしにとって新たな発見だ!」

終わりのない冬、果てのない凍土の只中を、休むことなく歩き続ける異形の巨人“ミール”。その背には、人々の暮らす都市が造り上げられている。都市の片隅に住む貧しい少年オーリャは、神学院教授ディエーニンの助手として、地上から、そして空からこの”世界”の在り方を垣間見る――。


うん、なかなか面白かった。
ただ前評判を目にしていたので、そこから想像していた分よりは面白くなかったかな。勝手にハードルを上げておいて何を言うって話ですが。更に言えば、中盤あたりでぼんやりと思い描いていた”ミール” の謎について*1、真実が明かされるものと思ってたので「あ、これで終わりかあ」 という印象が拭えませんでした。
もちろんその辺りは些末なことなのですが。作者があとがきで言ってる、『破滅と再生の寓話』 という辺りの話はだいぶん面白かったですよ。特にディエーニン教授も「見事な説得だったぞ〜」 と言ってる辺りの話は、不覚にも泣けてきました。そのまんま瞑目ですよ。……あと、アンドリューシャはマジ外道。心底から猫派の私を殺す気ですか。
それに、ラストシーンが感動的で余韻の残るような良いものだったことは言うまでもありませんが、79頁「分をわきまえろ、ってことさ……」 も良かったですね。これより前の、殴られる場面からひどく切ない気分になっていたのに、この一言で MAX に……。もうね、これは枕濡らしてますよ。私もオーリャも。


”太陽のような” オーリャが全編に渡って眩しい一冊でした。なるほど、今思い返すに評判どおりの面白さですね。

*1:人間で言えば血流から熱を取り出され続けているってことだよなあ、とか、一週間=一歩ってことはミールの時間間隔は人間のそれより遅く、それだと逆に、人間の周りを飛び回るノミなんかは凄い速度で色々やってたりするのかなあ、とか。