九つの、物語

九つの、物語

九つの、物語

読了。いきつけの本屋で一週間くらい探してましたが、入荷した様子が全く無いので、少し足を伸ばして遠くに行くとすぐ見つかりました。なんてこった。

たまたま読んだ物語の中に、わたしがいた。ああ小説とは、と思った。どこかの誰かが書いただけの話。まったくの作り物。それがなぜか、これほど絶妙のタイミングで、心に飛び込んでくる。とても不思議なことだ。そして、とても大切なことだ。

兄の部屋で本を読んでいたら、いきなり部屋に入ってきた。溜め息をつき、「あのさ、ゆきな。前から言ってるだろう。俺の部屋に入るなよ」 と言った。――私は、まばたきも忘れるくらい、驚いた。


実に良かった。
作者がインタビューで「これまでの作品をやすやすと超える、自信作になりました」と言っていましたが、確かにその通りでした。今までのハードカバーも全部買ってきましたが、これはレベルが1つ上の感じがします。
兄と二人で暮らす家で、9つの文学作品と共に各話が展開していくわけですが……全て未読なのが痛いところです。スパイス程度ですから、気にしなくても良いんですが……。ただ、第五話「ノラや」 で引用された部分を読んで泣けてきた時は、ちょっと後悔しました。まあ単純に、猫話に反応しただけですけど。我が家の猫も老いが進んでいますから……。
だんだんと熱がこもってくるのが第八話「わかれ道」 で、289頁「それでも、俺はおまえに希望を見てほしい。この世界のいいところを、美しさを、ちゃんと求めてほしい」 あたりはもう涙目でした。完全にうるんでます。一方で、これが作者の若い方に対する願いかな、と頭の片隅で考えてたりしましたが。
エピローグにあたる第九話「コネティカットのひょこひょこおじさん」 もなかなか綺麗で、禎文式トマトスパゲッティの”下らない格言” のくだりは、少しジンとしてしまいましたね。


ノラや」 はちょっと読んでみようかな、と思いつつ、次も期待。ハードカバーでも買いますよ。