晴れた空にくじら 浮船乗(ふなの)りと少女

晴れた空にくじら 浮船乗りと少女 (GA文庫)

晴れた空にくじら 浮船乗りと少女 (GA文庫)

読了。

「おれ、こういうの、見たことがあるぞ」
「えっ」
とクニが訊き返すのに、雪平はひとつうなずいて、
「こんなふうに、石を紐でつないで投げると、トンボが捕れるんだ」
「馬鹿っ」
こんなときに、という顔をしたクニに、雪平は、まったくだ、と思った。まったくなのだが、思いついたのでつい言ってしまったのである。

空に棲む”浮鯨” の体内に産し、空中に浮く力を持つ不思議な球体”浮珠”。波多野雪平は”浮船乗り” として商船に乗っていたが、とある事情から陸に一ヶ月滞在している。そうやって腐っていたある日、突然現れた少女はこう言った。「ここに浮船があるでしょう。――そのフネ、私にください」


地味に面白い。
まさにそんな言葉が似合います。前回の「ジョン平」 シリーズは、全体的にふんわりした雰囲気*1だったように記憶してますが、今回、おっとりしてるのは主人公の雪平だけで、話としては、オーソドックスなボーイ・ミーツ・ガールですね。でもいいよ、作者買いだから!
”浮珠” を船に積んで空を飛ぶ――というと、魔法で空を飛ぶような、ステッキひとつでON/OFFができて、ひゅうっと翔け上がっていくような想像をしがちですが……”浮珠” はそうではなく、常に250キログラム重の浮力を持っているので、取り扱いには細心の注意が必要で、船の高度を上げる時は錘を落とし、下げる時は”浮珠” を割る、といったような作業が必要になります。魔法というよりはSFですね。
58頁「案の定叱られた」 とか、133頁「そんなことを言われても困るなあ、おいおいやめてくれよう、という感じである」 とか、こういう所で笑ってしまうのは前作と同じなので、すごく楽しいです。そしてボーイ・ミーツ・ガールということで、この辺りはずっと強化されていますね。98頁「大したもんだ」 とか。そういう意味では、前作の3巻”――鈴音と。” は、今でも覚えてるくらい、はっきり言って酷かった(良い意味で*2) ので、素直に嬉しいですね。


長編シリーズということで、今度こそ続いて欲しい作品。期待です。




余談。
「ジョン平」 シリーズと同じく、同一の世界観の短編が作者サイトで公開されています。今回、この本を読むにあたって、同サイト内の「浮鯨撃ちの少年」 を先に読んでいたのですが、この少年”(周一) が早々に退場していて” びっくり。てっきり、この少年が主人公あるいは重要な役柄だと思っていたので。

*1:主にジョン平のせい。

*2:なんかもう身を切られるような思いでした。辛すぎる。