木野塚探偵事務所だ

木野塚探偵事務所だ (創元推理文庫(国内M))

木野塚探偵事務所だ (創元推理文庫(国内M))

読了。

まさに探偵小説のようではないか。桃世の枕元に立ち、ぞんざいにケーキの箱を放って、照れた微笑を浮かべながら『おまえさんなんかいないほうが仕事もはかどるぜ』 と、ハンフリー・ボガードのように吐き捨てる。そのシーンのなんと甘美なことか。銀行員や税務署員であったら、この台詞はぜったいに決まらない。

経理課一筋 37 年で警視庁を定年退職した木野塚氏は、ハードボイルド探偵に憧れて、長年の夢、探偵事務所を開設する。しかし、凶悪事件の依頼どころか、念願の美人秘書もやってこない。そして、やってきた記念すべき最初の依頼は、金魚誘拐事件だった――。ユーモア・ハードボイルド連作集。


面白い。
ハードボイルドではなく、ハードボイルドに憧れる 60 過ぎのお爺さんなので、なかなか”決まらない” ところが何ともおかしい、まさにユーモア・ハードボイルド――というのが中盤あたりまで読んでいて思ったことですが、「菊花刺殺事件」 のラストからは、雰囲気がちょっと変わっていって、ハードボイルドっぽい切なさが出てきます。この辺りのさじ加減は、さすが樋口有介の一言。
148頁「女に勘で分かることが、男にはなぜ分からんのだろうなあ」 もう本当、不意打ちってのはこういうことを言うんですね。ここの視線のやり取りが素敵です。247頁「絵葉書は、それは、嬉しい」 ここの会話も素敵。ハードボイルドとは、ちょっと違うような気もしますが。


柚木草平シリーズはまだ揃ってないので、次は「ぼくと、ぼくらの夏」 です。これも楽しみ。