追想五断章

追想五断章

追想五断章

読了。

父親の一周忌を翌日に控え、芳光は泣いた。
いったい、人間の生き死にに上下があるのだろうか。一篇あたり十万円の金で他人の物語を探す間に、花の季節は移り変わっていく。どうしてこんなことになってしまったのだろう。
ひどい虚しさが胸を覆っていく。雨音だけがうるさい夜だった。

古書店バイトの芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負った。亡父が生前に書いた、結末の伏せられた小説リドル・ストーリーを探しているという――。米澤穂信がはじめて描く、「青春去りし後の人間」 を描く長編。


面白かったです。
五つの断章をさがすうちに、そのリドルが書かれた背景となる事件の真相に迫っていく……という話。リドルの結末がアレだったせいで(まあ前の「儚い羊の祝宴」 の印象が強かったせいもありますが)、単にブラックな話かと思ってたんですが、実はミステリでした。
そして帯にも書いてありますが、青春小説を描いてきた作者の「青春過ぎ去りし話」 というのも印象的。主人公の境遇は言ってしまえばどこにでもある話で、私たちは「こんな話よくあること」 と笑い飛ばして何とか凌いでるわけですが、そうではない、色鮮やかな追想が許される人が目の前に現れるとヘコむよね、ということじゃないかと。


作者ブログによると、古典部をいま進めているそうです。期待。