天冥の標5 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河

読了。

「あんたは何者なの?」
「ぼくはノルルスカイン。世界に対して、もっと広く大きく触り、まだ自分の知らないことや、誰も知らないことを知ろうとした者だ」
「知ろうとした? 今は違うの?」
「今でもそうだ。けれどもぼくは思ったよりもたくさん見てしまったから」
「何を?」
「人が、可憐に滅んでいくさまを」


ふぅぅ、はぁー……。うん、面白かった。
息を呑むほど濃密な内容でした。最初は新しい場所の新しい登場人物――農夫タック・ヴァンディの物語なのに、気づけば1巻のメニーメニーシープへと繋がっている、という流れはもうお馴染みですね。それに加えて、一章進むごとに断章が挟まれるんですが……この断章で、今まで散々「被展開体」 やら「ダダー」 やらと呼ばれていた存在の正体が明かされていきます。
この出自がまた圧巻なんですよね。取った餌を隣に渡すサンゴ(のようなもの) がニューロンのようなネットワークを形成して、そのネットワーク上で謎の存在が「我あり」 と考えるようになる……というところから始まります。普通、人類以外で複雑な思考をする存在って、良くも悪くも亜人というか、人型を基本にした、五感があるタイプを想像しやすいと思うんですが、そうではなくて、全く人とは違うところから始まって、やがては知的存在になっていく……というのが凄かったです。しかもそれが紀元前ウン万年前から始まっていて……宇宙のアレコレを考えると胸が熱くなりますね。
断章は数字順に並べていくと時系列に並ぶみたいで、読み返してみると羊飼いの爺さんらしき人は既に断章でも出てきてたりして……これは、新刊が出る度に断章だけでも読み返したほうが楽しく読めそうです。


「一掬の涙」 で「ひとすくいの涙」 らしいです*1。百掬の銀河とはつまり、手で百回すくうほどの銀河ってことで、銀河の単位をひとすくいで数えるって、なんだか胸が熱くなりますね。

*1:両手から溢れるほどたくさんの涙という意味と、手からこぼれてほんの少しも残らない涙という真逆の意味があるそうですが……。